(日本語訳)全羅道人の音楽的志向 ~鑑賞楽曲を中心に~


【日本語訳】: 神野知恵(東京藝術大学大学院 博士課程)
 
筆者:金恵貞(キム・へジョン)
 韓国精神文化研究院韓国学大学院終了(博士)。現在、京仁教育大学校音楽教育科副教授。そのほか、仁川広域市文化財委員、京畿道文化財委員を兼ねる。
 主要著書に『우리 몸에 새겨진 삶의 노래 강강술래』(2004), 『女性民謠의 存在樣相과 傳承原理』(2005)、『京畿道의 鄕土民謠』(2006)、 『북녘땅 우리소리 樂譜資料集』(2007)、『初等國樂敎育의 理解와 實際』(2008)、『판소리 音樂論』(2009)、『伽倻琴竝唱』(2010)などがある。学位論文は「女性民謠の音楽的存在樣相と傳承原理―全南地域を中心として」(2003年)。

付記 今回、本研究会のために、全羅道音楽の特質を考察した論文を寄せてもらいました。ここに掲載したのはその要旨です。お忙しいなか、現地で採録した音声をも添えていただきました。記して感謝します。(2011.9.19 野村伸一)

 

 

音楽文化圏

韓国の音楽文化圏は、一般的に京畿、西道、東部、南道、済州の5つの地域に分けられるが、これは民謡の音階構造を基礎にした分類である。全羅道はこのなかで南道に該当する。全羅道の伝統音楽は他の地域に比べ、かなり活発な伝承力を誇っており、多様性を持ち、絶え間なく変化を追求している。

<그림1> 韓國의 民謠圈 <図1> 韓国の民謡圏

音階

全羅道は音楽的には「ユクチャベギトリ(ユクチャベギ調)」と呼ばれる音階を使用する地域であると定義できる。ユクチャベギトリは「ミラド‐ドシラミ」というように上行と下行の構造が異なる独特な音階であり、韓国では唯一、半音が使用される有半音音階として、短調的な性格を帯びる点が特徴である。

拍子 

また、全羅道で用いられる3小拍4拍と、3小拍6拍、3小拍3拍のチャンダン(リズム)は互いに有機的な関係にあり、速度によって、互いに入れ替わることがある。3小拍6拍が速くなると、2小拍12拍や3小拍12拍、または3小拍4拍型に変わり、2小拍12拍や3小拍12拍が速くなると3小拍4拍になる。つまり全羅道音楽の拍子は、独立して存在しているのではなく、結局のところ同じ構造の拍子が速度によって区分されている、ひとつの語法なのだと言うことができる。全羅道民謡で使われる拍子に関して、代表的な楽曲を挙げると次のようになる。

<表1>全南地域の民謡の拍子別代表楽曲

<表1>全南地域の民謡の拍子別代表楽曲

音楽的志向 

1.人生を反映させるソリ(声、歌)

全羅道の人々は、粗粗あらあらしくも爽やかな音色を好み、喉を押さえつけて出すような重い発声をする。粗く重い声にこそ、暮らしのなかの喜怒哀楽を込めることができると考えているからだ。全羅道人の音色の好みに関しては、弦楽器、とくにアジェン(牙筝、散調牙筝)が好まれるという点からも伺い知ることができる。(鑑賞6 アジェン散調鑑賞)

2.積極的で直接的な情緒の表出

全羅道の人々は歌詞よりも音楽を重視し、リズムよりも旋律を強調する。全羅道民謡は歌詞よりも音楽に焦点を当てているため、リズムよりも旋律的な面を強調している。そのため、他の地域よりも多様な楽曲が存在する。

3.女性たちの多様な情緒表出

女性達が積極的に民謡を楽しむのは、海岸と島嶼地域を中心として、女性達が男性にひけをとらないほどの労働を担っている生業環境と関連がある。女性たちは多様な情緒を、多様な音楽的方法で表出する。女性の民謡は男性の民謡よりも情緒の表出に比重をおいており、そのために機能の流動性、情緒表出の包括性、ジャンルの複合性などを作り出している。

4.積極的で自主的な開放と受容

全羅道人は他地域との豊かな地理的接触による変容(接変)を通じて他文化圏の音楽を受け入れ、ジャンルを越えた接触によって他ジャンルの音楽を受容している。このような多様な音楽文化的変容は、全羅道地域の民衆の多様な生活環境と開放性を基盤にしている。

5.新たな音楽文化の創出

全羅道の名人・名唱たちは、師匠の音楽をそのまま真似ることに関して批判的である。そっくりそのまま真似て演奏することを「写真ソリ」と呼んで卑下し、自身の個性をこめた音楽を作り出すことに一生を捧げた。自分にしかできない音楽を作り出した時、はじめて名人・名唱の称号をもらうことができたのである。

<樂曲解說>

鑑賞1「ユクチャベギ」- 全羅道の代表的な民謡である。本来、田の草取りをする時に歌う歌であったが、今は職業音楽人の歌になった。本録音は珍島郡で調査した歌であり、職業音楽人の雰囲気を真似て歌ったもの。

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鑑賞2「フングルソリ」- 暮らしむきが辛いときに歌う歌。珍島郡観梅島で録音した資料であり、夫に対する怨みと自分の人生に対する嘆きを歌ったものである。

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鑑賞3「珍島アリラン」- 全羅道東部地域の代表的な歌として、「サンアジタリョン(打令、節)」に「アリラン」の応唱部を加えて歌う歌である。新安郡にて録音。

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鑑賞4「ドゥンダンゲタリョン」- 全羅道西部地域の代表的な歌。機織りをしたり、遊ぶときによく歌われる歌である。海南郡にて録音。

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鑑賞5「カンガンスルレ」- テボルム(旧暦1月15日)の夜に、丸く円陣を組んで回りながら歌った遊び歌だ。珍島郡にて調査録音。

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鑑賞6「牙筝散調」 – 全羅道の人々が好む音色を持つ牙筝という楽器によって、散調(全羅道音楽文化を基本に作られた器楽曲)を演奏した曲である。

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