趣旨説明(manifesto、성명、宣言)


研究会「東方地中海基層文化研究」―趣旨説明(manifesto、성명、宣言)

新プロジェクト

 2011年4月から上記の研究プロジェクトをはじめました。これは慶應義塾大学東アジア研究所内に開設されているいくつかの研究プロジェクトのひとつです。二年間の活動を経たのちに、報告書を出す予定です。
 新プロジェクトの正式名称は、「日本・中国・韓国からみた海域文化の生成と変容―「東方地中海」をめぐる基層文化の比較研究」です。表題「東方地中海基層文化研究」は略称です。
 

現況

  東シナ海地域は文化史的には非常に重要なところです。しかし、残念なことに、今日、この地域に関するわたしたちの知見は限られています。マスメディアで取りあげられるときは、日本・中国・韓国の国家政策的な議論のもとで語られることがしばしばです。尖閣諸島あるいは黄海のいくつかの島は大衆報道においてはまさに火種であり、それをめぐって煽られた国民感情は抜き差しならぬものとなりがちです。
 

海域の文化史

 けれども、東シナ海地域の文化史を少し冷静に振り返ると、わたしたちの興奮や憤りは「短見」の所産だということがわかります。近代国民国家形成以前にこの海域を往来した人、船、物、衣食、庶民感情、死生観、それに伴う価値観を知れば、この海域に生きる庶民がいかに根柢において共通したものを持っているかがわかります。
 

教育の不在、惰性

 この海域の人びとをして互いに理解不能な異人のように仕立てたのは誰でしょうか。それは、近世後半から近代にかけての教育者であり、また、その教えを信じ、あるいは利用しつつ、一国本位の政治をおこなった者たちでしょう。その惰性は今日においても引きつづいているとおもわれます。

 
名称解題

  新プロジェクトの正式名称に込めた意味は次の三点に集約されます。

  一、比較の基準を「日本・中国・韓国の視点」に置く。
  二、具体的には次の三地域を比較の拠点とする。

  1. 泉州・台湾地域
  2. 琉球・九州地域
  3. 朝鮮半島南部・済州島地域

  三、「生成」とは歴史的経緯であり、「変容」とは近現代のフィールドワークにより得られたそれぞれの地域の具体的な記述である。
 

 泉州・台湾地域

  比較には基準が必要です。従来、広い海域の個々の場所を無規定に選択し、あるいは国家別に(しかも一国家を中心に)取りあげることがしばしばなされてきました。しかしそれには限界があります。その限界を乗り越えるためには中国江南の文化を的確に見通す必要があります。それには地域単位の設定が不可欠です。1.はその意味で設定したものです。この地域は中国江南の伝統文化を語るのに必要十分とはいえないにしても、今日、なお生きた民俗を相当に伝えています。それゆえ、この地域に共感を抱いて接近することは、広い江南の海域文化を把握するのにたいへん有効です。なお、浙江省の舟山や嵊泗の島嶼郡の文化は三地域の文化の背景として絶えず参照すべきことはいうまでもありません。
 

東方地中海―比較対照項目を通した命名

  三地域の比較対照のための見取り図を別途「東方地中海地域,三地域に基づく比較対照項目」に掲載しました。これはさしあたりの指標ですが、これだけでも各地域が互いに共通の基軸の上にあることがわかります。これらの比較対照を進めることで、この海域がひとつの海域としてまとまることが予想されます。その統合された海域をここでは「東方地中海」と命名しました。今後、同学の方々の協力をあおいで、この海域の一体性の追究、同時に多くは近世以降に生じた差異の意味究明などをつづけていきたいと考えます。

  以上の趣旨説明に基づいた研究成果を今後、このサイトに掲載していきます。それぞれの地域に足場を置きつつ、他の二地域にも絶えず視野を伸ばす。そうしたところからの多様な資料提供、論考を期待するところです。

 なお、このサイトでは、個々の成果の表題は可能な限り日本語、ハングル、漢語(Han yu)で表記していくつもりです。

 (2011年4月 研究代表 野村伸一)

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