第5回-(1) 祭祀を通してみた宮古島 ー 三輪山伝承との関わりから(2012/12/08)


年頃の娘が正体不明の誰かの種を宿す。その誰かの素姓を探ろうとする神話・昔話が存在する。説話学ではそれを「三輪山説話」と名づけている。『古事記』に語られる三輪山の大物主の神(蛇神)が人間に胤を宿した。人間は男の素姓を知りたくて、その男に付けた糸を辿って後をついていく。「三輪山説話」系統の話には必ずといってよいほど語られるパターンである。昔話の話型では「苧環型(おだまきがた)・蛇婿入り」と呼ばれる。「蛇婿入り」には「水乞い型」もある。

「苧環型・蛇婿入り」の話型は広く日本全国に分布しており、沖縄県にも存在するが、この話型の昔話は、沖縄の民俗行事である旧暦3月3日の「浜下り」の起源譚にもなっている。「苧環型」の説話は、朝鮮、中国、ベトナムなど東アジアに分布し、多くの場合、王朝の始祖あるいは英雄の出生譚となっている。宮古の漲水御嶽と大城御嶽の場合は、島の守護神の誕生と村の始祖の誕生と祭祀の起源と関わりが深い。

「苧環型・蛇婿入り」の神話は、沖縄県の沖縄諸島・八重山諸島にはみえず、宮古諸島の中、宮古島のみに見える。「水乞い型」の話は宮古にはない。

「苧環型・蛇婿入り」の神話は、宮古島の狩俣の大城御嶽と、西里の漲水御嶽にそれが伝えられる。大城御嶽と漲水御嶽とに関わる「苧環型・蛇婿入り」の神話を文献と口頭伝承に拠って表にまとめると、次のようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

大城御嶽

 

 

 

 

 

 

書名

男神の名

妻の名

子の名

場所

父親の確認方法

針・苧

 

 

 

 

 

 

 

御嶽由来記

×(若男)

豊見赤星

×(男女)

大城山

最初に出会った者

×

(事例1)

 

てたなふら真主

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

琉球国由来記

×(若男)

豊見赤星

×(男女)

大城山

最初に出会った者

×

(事例2)

 

テタナフラハイ主

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

琉球国旧記

×(少男)

豊見赤星

×(男女)

大城嶽

最初に出会った者

×

(事例3)

 

手掌洞拝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

琉球国由来記

×

豊見赤星

ハブノホチ

大城山

×

×

(事例4)

 

テダナフラ真主

山ノフセライ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の神々

アサティダ

ンマティダ

ティラヌプーズ

中国森

夢告

(事例5)

 

 

山ノフセライ

 

 

 

 

 

 

(死ぬ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漲水御嶽

 

 

 

 

 

 

御嶽由来記

恋角

すみや里の娘

×(三人の女)

漲水

夢告

(事例7)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記の表から明らかになった事を列挙すると以下の事が指摘できる。

① 狩俣の大城御嶽の文献の記録では「苧環型」のモチーフはみえない。

 ② 狩俣の大城御嶽に関する口頭伝承では「苧環型」のモチーフがみえる。

 ③ 時代が異なるとはいえ、狩俣では非「苧環型」と「苧環型」が混在する。

④     西里の漲水御嶽の文献記録(口頭伝承)でも「苧環型」のモチーフがみえる。

⑤     「苧環型」の重要なモチーフとなる糸は、機織り技術を前提とする。

大城御嶽の場合、「苧環型」ではない「蛇婿入り」の神話がある。神話は祭祀の場で篤い信仰に支えられて厳粛に伝承されてきた。その内容は信仰を共にする者(神女・神役)以外にはうかがい知ることができず、本来祭祀の場を離れて明らかにされるべきものではなかった。しかし、信仰の弛緩あるいは何らかの事情でその不文律が次第に守れなくなると、神話として語られていた話が一般の場に漏れ出て、関係者以外にも享受が可能になる。大城御嶽には纏わるもう一方の「苧環型」の伝承もその例外ではない。

つまり、狩俣の大城御嶽の伝承のように、「苧環のモチーフを持たない伝承」が古層にあり、何らかの事情で新たに「苧環のモチーフを持つ伝承」が付け加わったと考えられる。

宮古の「三輪山伝承」は苧環のモチーフを持たない伝承が古層にあり、機織り技術の発達と共に、苧環のモチーフを持つ新たな成長・展開と遂げたと考えられる。

漲水御嶽の文献記録・「苧環型」は、時の為政者・仲宗根豊見親(ナカソネトゥユミャ)の権威の象徴として「三輪山伝承」が取り込まれた可能性もないわけではない。だが、漲水御嶽の伝承もその原型は大城御嶽と同じような「苧環型」ではない構成内容だったのではなかろうか。

本発表では宮古島の大城御嶽にまつわる三輪山説話「苧環型・蛇婿入り」を下敷きにした狩俣のウヤガン祭について述べ、それが宮古一円に存在したことを話し、ウヤガン祭とユークイ祭が同一祭祀の異称だということを発表したい。